牛肉のおいしさを引き出すには熟成と調理法に関連がある
食肉の熟成は肉種に応じ、屠畜後、適正な温度管理のもとで熟成され、用途部位に分割され、一般消費者の手にわたります。この間に肉質は軟化し、ジューシーになり、旨味が増し、まろやかさが増してきます。
図2に熟成前後での牛肉、豚肉、鶏肉のスープ中の遊離アミノ酸含量が示されています。
出典「最新畜産物利用学」 朝倉書店(2006)
肉類の成分組成と調理
肉類の成分として、脂質とたんぱく質が食肉の肉質に大きく関与し、特に脂質は部位や老幼の差異が大きく、脂質は飽和脂肪酸が量的に多く分布していますので、肉類の脂質は常温で個体を呈し、加熱により融解し、加熱香気をもたらします。
肉類の中で、豚肉や鶏肉の脂質は多価不飽和脂肪酸が比較的多く含有されていますので、食肉の中では口どけが良い点が特徴です。また豚肉や鶏肉は、冷めてもおいしく食べられるので、ハム・焼豚等の加工品や白切鷄のような調理に使われます。
たんぱく質は肉を構成するたんぱく質の種類によって肉質が異なります。肉基質たんぱく質含量の少ない肉(ヒレ肉、もも肉)は、肉質が概してやわらかいので、短時間加熱の焼く、炒める、揚げる等の調理に使われます。逆に肉基質たんぱく質含量の多い肉(すね肉、かた肉)は煮込み料理やひき肉料理に使われます。
おいしさの要因とは?
ところで、おいしいとはどのようなことでしょうか。おいしさの構成要因とは
・食物の特性
⇒化学的特性・・・味、臭い
⇒物理的特性・・・テクスチャー、外観、温度、音・人の特性
⇒生理的特性・・・年齢、健康状態、空腹感、薬の使用など
⇒心理的特性・・・喜怒哀楽の感情、不安、緊張など
⇒個人的体験・・・食体験、嗜好・環境要因
⇒自然環境・・・気候、地理的環境
⇒社会環境・・・経済状況、治安状況、宗教、文化、習慣、情報など
⇒食事環境・・・食事部屋の明るさ、温湿度、音、におい、外観、食卓のセッティングなど出典「スタンダード栄養・食物シリーズ6調理学」今井悦子、畑江敬子、香西みどり編 東京化学同人(2003)
①食べ物自身がもつ特性、②食べる人の状態および③現在および現在に至る環境要因の3つが関与しています。
中でも、食べ物のおいしさは、口の中で咀嚼し、えん下に至る過程で生まれる感覚がベースになっていますので、決して他の消化器で生まれるものではありません。食道から胃、それ以降の消化器は栄養情報を授与し、消化・吸収に関わる酵素、補酵素、ホルモンなどの分泌に関与します。
食べ物の味を楽しめるのは、見て、口中で味わい、喉を通過するまでの間にしか過ぎません。
味わうことが快くなされた時は満足感をもたらし、食欲が増し、食べ物を摂取し続ける行動となり、食事が進みます。一方、ある程度のところで満足し、食べることをセーブします。
これらのプロセスで唾液に放出される味成分をキャッチする味覚受容器は口中(舌、軟口蓋、咽頭、喉頭)にしかありません。また、食べ物の硬さ、弾力性、多汁性等のテクスチャーを感ずる触覚受容体は口腔粘膜、舌、歯肉、歯根膜にありますので、自分の歯があれば、脳を活性化するばかりでなく、食べ物の多岐にわたるおいしさを堪能できます。特に、肉のおいしさは咀嚼によって、おいしさが広がり、深まる特性があります。
肉類と調理
肉類には様々な調理方法でおいしく調理され、供食されます。
使われるエネルギー源としては、家庭では、主にガスと電気です。鍋、鉄板等を使い、水、水蒸気を熱媒体とする湿式加熱や電磁調理器での調理は、水があるかぎり焦げることがありませんので、肉と煮汁の柔らかさ、多汁性、旨味などをいかに引き出すかが調理の要点となります。
電子レンジ加熱も焦げ目がつかない加熱法です。最近の電子レンジは出力調整が多段的に調整され、マグネトロンの設置位置にも改良がなされています。少量・短時間で調理されることは非常に魅力的ではありますが、肉類の加熱でたんぱく変性が急激に進みますので、肉の調理には扱いが難しいといえます。
ガスや電気として焼く、揚げる、炒めるなどの調理は高温加熱となるので、肉の脂肪、肉汁、調味料の成分が一体となった焦げの風味と焦げ色がつき、おいしさが重層されます。そして、テクスチャーも高温の空気や油、鉄板などに接する部位と内部の食感の差異が新たなおいしさとなります。これらの加熱にはガスばかりでなく、オール電化キッチンでの電磁調理器でも十分対応できます。
摂取エネルギーの加減
肉類の調理は肉の種類や部位、切り方、調理法によって、料理からの総エネルギーを加減できます。エネルギーをカットしたい場合は、脂肪の少ないもも肉、ヒレ肉を選び、薄切りにしてゆでたり、蒸したり、網焼きにするとよいでしょう。
まとめ
以上のように、肉をおいしく、健康的に調理するためには、調理の目的に適した肉や調理法の選択で、容易に達せいできます。また、熟成の方法によりますが、化学的にも熟成すると遊離アミノ酸の含有量の変化が伴い、調理によっておいしさの変化が起きることがわかります。